HOTOTOGISU‐滅せぬもののあるべきか‐
作品情報
「お待たせしました───遅くなってすみません」二年ぶりに出所した俺を、我が有能なる片腕はそんな面白くもない言葉で出迎えた。「フン───相変わらずで何よりだ」肩を竦めて答えつつも車に乗り込む。元総理大臣である親父が他界してから、俺の人生は一変した。実父殺害の容疑で逮捕され、挙句まったく身に覚えのない罪を次から次へと被せられ、気づけば雪だるま式に罪状が増えていた。何回死刑になれば償えるのかもわからないほどだ。身に覚えのある罪はいくらでもあるが、発覚したものなど一つもない。つまり、濡れ衣である。ちなみに当然ながら、俺は親父を殺していない。すべては現総理大臣【高井田幸造(たかいだこうぞう)】率いる【民権党(みんけんとう)】の陰謀である。こうして無事釈放されたのは、我が有能なる片腕の働きのおかげというわけだ。もっとも、無条件で自由というわけでもない。当面の間は高井田の息のかかった当局の捜査員の監視下におかれ、親父の地盤を引き継いで政界へ進出したり、取引内容を暴露したりしないよう約束させられている。妹を実質人質に取ってまでという念の入りようである。元総理大臣の息子である俺に許された生き方は、資産を食い潰しながらの細々とした生活だった。無論、そんな退屈で窮屈な人生にこの身を捧げるつもりはない。何よりこのまま連中の好きにさせていたら、ただでさえ利権と汚職に塗れて傾いているこの国は、知らない間に隣国のエサと成り果てるだろう。俺は親父とは、決して良好な間柄ではなかった。だが、その愛国心と鉄のような信念だけは少なからず尊敬していた。親父のためなどとは言わないが───俺とてこのまま連中の好きにさせておくのは面白くない。ここからは、俺のターンだ───。「まずは何から手をつけますか?」「そうだな───まずは、死ぬところから始めようか」